知的財産権が侵害された場合、相手方に対して侵害行為の停止を求める「差止請求」や、損害の回復を求める「損害賠償請求」ができます。
以下では、自分の特許権(物の発明)が侵害されていると思われる場合の対処の仕方について見ていきます。
■ 侵害製品を特定する
特許権が侵害されていると疑われる場合、まずは、相手方の製品(「イ号製品」と呼ぶことがあります。)を入手するなどして、当該製品の製造者や販売者を特定します。また、相手方製品の構成や構造を解析し、そこで使用されている技術内容を把握します。
■ 権利侵害の有無を判断する
侵害行為が特定されると、次に権利侵害の有無を検討することになります。
侵害が疑われる権利が特許権である場合は、特許公報の「特許請求の範囲」(「クレーム」と呼ばれることがあります。)の記載を構成要件に分説し、相手方製品で使われている技術がこの構成要件を充たすか否かを検討します。
相手方製品が構成要件を全て充たせば特許権侵害にあたり、構成要件の1つでも欠ければ非侵害となります。
■ 無効理由の存否を確認する
さらに、相手方に対して特許権侵害であると主張した場合に、どのような反論がなされるかについても検討しておくことが重要です。
多くの特許権侵害訴訟では、被告から特許無効の抗弁(特許法104条の3)が主張されます。無効理由は特許法123条1項1号に規定されていますが、その中でも、新規性の欠如(特許法29条1項)や進歩性の欠如(同29条2項)を理由とするケースが多いようです。
特許権が無効と判断されると権利行使は認められないため、相手方に特許権侵害を警告する前に先行技術調査を行い、無効理由がないことを確認しておく必要があります。
なお、相手方が無効理由を争う手段としては、特許侵害訴訟の中で無効の抗弁を主張するほか、特許庁に無効審判を請求する方法があります。
無効審判が請求されると、特許権者はこれを無視するわけにはいかず、裁判所における特許権侵害訴訟と特許庁での無効審判の双方の手続に対処することになります(ダブルトラック問題)。
■ 権利侵害を争う手段
特許権侵害が争われる場合、権利者がいきなり訴訟を提起することは、ほとんどありません。内容証明郵便を送付するなどして相手方を警告し、侵害行為の停止やライセンス契約の締結を求めることが通常です。
裁判ともなれば時間も費用もかかるうえ、敗訴の可能性もあるため、警告書を送付して問題が収まるようであれば、交渉による解決を探ることが得策であるケースも多くあります。
しかし、警告書を送っても相手方が協議に応じない場合や協議が決裂した場合に、それでも解決を図ろうとするならば、訴訟を提起することになります。
また、特許権侵害に対して差止めを求めたい場合は、裁判所に仮処分を申し立てる方法もあります。仮処分は暫定的な措置なので、最終的な解決のためには訴訟を提起する必要がありますが、申立てを認容する決定が出れば直ちに執行できるというメリットがあります。