知的財産に関する契約は多くありますが、代表的なものとして、以下のものが挙げられます。
■ 秘密保持契約の意義
秘密保持契約は、ライセンスや共同研究開発、事業提携などの取引に先行して、秘密情報を相手方に開示し、あるいは相手方から秘密情報の開示を受ける場合に、予め締結しておく契約です。
自社の従業員や役員による情報漏洩を防止するため、入社時や役員就任時に、秘密保持の誓約書という形で提出させることもあります。
■ 情報開示の目的
秘密保持契約を締結することにより、情報を受け取った相手方に対して、当該情報を情報開示の目的以外に使用してはならないという義務を負わせることが可能になります。
よって、秘密保持契約を締結する場合には、情報開示の目的を定めておくことが重要です。
■ 秘密情報の定義とその例外
どこまでの情報が秘密保持の対象となるのかを明確にするために、秘密情報の範囲を特定する必要があります。
一方、①開示を受けた時点で既に保有していた情報、②第三者から秘密保持義務を負うことなく正当に取得した情報、③公知情報、④開示後、自己の責めによることなく公知となった情報、⑤秘密情報を用いずに独自に開発した情報、については、秘密情報から除外されることが一般的です。
■ 秘密保持義務の内容
秘密保持義務の内容として、目的外使用の禁止のほか、第三者への開示禁止や、複製の可否などが規定されます。
■ その他の条項
他に定めておくべき条項として、損害賠償、契約終了時における秘密情報の取扱い、存続効などがあります。
損害賠償の条項は、開示された秘密情報の不正使用が発覚した場合の賠償責任が規定されます。
秘密保持義務違反により生じた損害を立証することが容易でないため、予め賠償の範囲を拡張、あるいは制限して規定することもあります。
契約終了時における秘密情報の取扱いとして、秘密情報が記録された書面や複製物の返還、廃棄について規定することが一般的です。
廃棄の場合は、廃棄証明書の提出を定めることもあります。
存続効は、秘密保持契約が終了した途端、秘密情報の開示を受けた側が、当該情報を自由に使用したりすることを避けるために規定されます。
秘密保持義務や損害賠償、秘密情報の返還・破棄などの規定については、多くの場合、一定期間効力が続くこと(存続効)が定められています。
秘密保持契約は様々な場面で締結されます。
状況に応じた適切な条項を規定することが重要です。
■ ライセンス契約を締結するメリット
ライセンス契約とは、特許権等の権利を有する者が、当該権利を実施、使用もしくは利用する権能を第三者に付与する契約をいいます。
知的財産権を保有することのメリットは、他人による実施や模倣品・類似品を排除することだけではありません。
ライセンス契約を締結し、自社の知的財産権を他社に利用させることによって、実施料の支払いを受けることができるだけでなく、自社技術の普及に繋がり、市場を拡大させる効果も得られます。
一方、ライセンスを受ける側にとっても、研究開発にかかる時間や費用を節約しながら商品販売が可能になるという利点があります。
このように知的財産権を保有しつつ、ライセンス契約を締結することで、知的財産権を有効に活用することができます。
■ ライセンス契約の条項
ライセンス契約では、「許諾の範囲」や「ロイヤリティ」などの基本条件のほか、「不争義務」、「改良技術の取扱い」、「第三者による権利侵害への対応」など、一般の契約では見られない内容を定めることになります。
また、実施内容について「専用実施権」とするか「通常実施権」とするか、通常実施権だとしても「独占的な通常実施権」とするかどうかについても検討する必要があります。
ライセンス契約を自社に有利な内容とするためには、各条件をよく検討して、交渉の相手方に提案することが重要です。
共同研究契約や共同開発契約は、新しい技術の研究・開発を行うために、企業間、あるいは大学などの研究機関と企業との間で締結されます。
共同研究契約や共同開発契約で定められる事項としては、以下のものがあげられます。
■ 研究開発の目的
新しい技術の研究・開発のために締結されるので、研究開発の目的を明記する必要があります。
■ 業務分担、費用分担
新しい技術の研究・開発を共同して行うのですから、当事者間の業務分担や費用分担について規定する必要があります。
費用の分担については、各当事者の業務内容や成果の帰属等に鑑み、衡平に定めておかなければ紛争のもとになります。
契約書の雛形では、「自ら分担した業務に要した費用をそれぞれが負担する」というような例も多くみられますが、これによると必ずしも平等な費用分担とはいえないケースも見られ、検討の余地があります。
■ 情報の提供、秘密保持条項
共同研究・開発を促進するためには、当事者が保有する情報を相手方に提供することが望ましいといえます。
そこで、共同研究・開発に必要な情報を、当事者相互に開示、提供する旨が定められるとともに、秘密保持条項についても規定されることが通常です。
■ 成果の帰属、実施、公表
重要となるのは、共同研究・開発の成果や知的財産権の帰属、あるいは成果の実施について、どのように取り決めるかです。
共同研究・開発の成果および知的財産権の帰属については、当事者の共有とする例が多く見られますが、一方当事者のみに帰属とする例もあります。
費用負担や成果に対する貢献度等を考慮のうえ、当事者が協議して決めることになります。
成果の実施については、各当事者が実施できるとする例のほか、当事者の一方が研究機関の場合は、他方の当事者(民間企業であることが多い)のみが実施できるよう定める例も見られます。この場合には、実施しない側(研究機関)に不実施補償が支払われることがあります。
なお、共有となった特許については、他の共有者の同意を得ることなく第三者に実施を許諾することはできません(特許法73条3項)。
また、一方当事者が成果を無断で公表しないよう、相手方当事者の了承を要する等の制限を設けることが一般的です。
製造委託契約は、受託者が委託者の注文を受けて製品を製造し、これに対して委託者は受託者に報酬を支払うことを内容とする契約です。
製品の製造という仕事の完成に対して報酬が支払われるため、法的性質は請負になります。
製造委託契約では、委託者が提供した図面や仕様書に基づいて受託者が製造を行うため、委託者の技術情報やノウハウが受託者に開示されてしまうことになります。
そこで、こうした情報等が外部に漏洩しないよう秘密保持条項が定められていることが一般的です。
一方で、製造委託契約は、委託者が受託者の高い技術力を信頼して製造を委託しているという側面がありますが、事案によっては、委託者が受託者に対して技術データの開示を要求したり、あるいは、金型を製造して引き渡すだけの取引であるにもかかわらず、金型設計図面まで提供するよう強要したりする例も見られます。
さらには、受託者が委託者の指示に従って製造する取引なのに、製品に関して知的財産権侵害の紛争が生じた場合は、受託者の全責任で対処しなければならないとする条項が規定されている例もあります。
こうした不公正な取引を回避するためには、下請法の適用を確認する、あるいは、中小企業庁の「知的財産取引に関するガイドライン」を参照してみるなど、対抗措置について検討しておくことが重要となります。
当事務所ではライセンス契約だけでなく、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、ノウハウ等、以下のような知的財産権関連の契約書の作成およびレビューを承ります。
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