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意匠権・デザイン

目次

意匠権・デザインの保護

■ 意匠権とは

意匠権とは、新たな意匠(デザイン)を創作したことに対して与えられる権利です。
意匠権として保護されるためには、特許庁に出願して意匠登録を受ける必要があります。

意匠登録がされると、意匠登録出願日から25年間保護されます。
これまで意匠権の存続期間は登録日より20年でしたが、令和元年改正意匠法により延長されました。
2020年4月1日以降に出願したものから適用されます。

■ 著作権法による保護との関係

意匠(デザイン)は、著作権法によっても保護される場合があります。
著作権法による保護を受けるには、意匠権のような登録の必要はありません。創作と同時に権利が発生します。

1 著作権法によって保護を受けるもの

(1)純粋美術
もっぱら美的鑑賞の対象となる「純粋美術」は、「美術の著作物」として著作権法によって保護されます(著作権法10条1項4号)。
一品だけを目的として製作された絵画や彫刻などがこれにあたります。

(2)美術工芸品
実用的な目的で製作されるものの、美的鑑賞の対象となる壺や陶芸品など「美術工芸品」と呼ばれるものは、「美術の著作物」に含まれ、著作権法によって保護されます(著作権法2条2項)。

2 意匠法によって保護されるもの

一方、意匠法による保護を受けるためには、「工業上利用できる」意匠であることが要件とされます(意匠法3条1項柱書)。
工業上利用できるというのは、工業的な生産方法により同一の物品等を反復して大量に生産できることをいいます。
工業上利用され量産を目的とした製品等についての意匠は、原則として意匠法によって保護されます。
例えば、車や電気製品の意匠がこれにあたります。

3 応用美術について

量産された実用品に美術上の技法が施された「応用美術」(このうち「美術工芸品」と呼ばれるものは著作権法で保護されることは上記1(2)のとおりです。)も、意匠法の保護対象になりますが、著作権法で保護されないのか否かについては、判例上、争われています。

この点、知財高判平成27年4月14日(TRIPP TRAPP事件)は、美術工芸品に該当しない応用美術であっても、著作物性の要件を充たすものは、「美術の著作物」として保護されるものと解すべきとしたうえで、「ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合、当該表現は、作成者の個性が発揮されたものとはいえず、「創作的」な表現ということはできない。」と判示しました。

そして、「応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」と述べています。

■ 意匠権の侵害

意匠権者から実施を許諾されていないにもかかわらず、業として登録意匠と同一または類似の意匠を実施(製造・販売等)すれば、意匠権の侵害となります。
意匠権の侵害に対しては、民事上の救済手段として、差止請求権や損害賠償請求が認められています。また、刑事罰も規定されています。

■ 意匠の類否判断

上記のとおり、意匠権者に無断で登録意匠又はこれに類似する意匠を実施すれば、意匠権の侵害にあたるため、意匠の類似の判断が問題となります。

意匠の類似の判断基準は法律で規定されているわけでなく、必ずしも明らかではありません。
一般には、(1)意匠に係る物品が同一、類似かどうか、(2)意匠の形態が同一、類似かどうかを検討します。
そして、(2)については、意匠を全体として観察して、需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠の要部が共通するかどうかを中心に判断することが多いです。
両意匠の要部が共通する場合、あるいは差異があっても僅かであるような場合には、類似性が肯定される方向で判断されます。

デザイン開発と事前調査

■ 事前調査の目的
デザインを設計あるいは開発するにあたり、競合他社や市場の動向について事前調査をする必要があります。
これには、同種商品の中で差別化を図るために、他社の動向やトレンドを把握して、斬新なデザインを開発するという目的もありますが、他社に対する権利侵害を回避するという目的もあります。

■ 権利侵害を回避するための先行調査
権利侵害を回避するというのは、具体的には、他人の意匠権を侵害しないようにするということです。
商品開発が終了し、販売が開始された後になって権利侵害が発覚した場合には、権利者から製造・販売の差し止めや損害賠償を請求され、多大な損失を被ります。
また、そこまでの段階に至らなくても、既に投入していた資本や労力が無駄になり、やはり大きな損失が生じます。
デザイン開発の早期の段階、できれば開発に取り掛かる前に、先行する意匠の調査を行えば、万が一類似する意匠の存在が判明しても、デザイン変更が容易であり、権利侵害を回避することができます。

■ 先行意匠の調査方法
先行意匠の調査方法として、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の特許情報プラットホーム(J-PlatPat)や、民間のデータベースを活用する方法があります。J-PlatPatは誰でも無料で利用することができます。
ただ、検索に慣れるまでは、なかなか的確な情報にたどり着かないこともあります。その場合には、費用はかかりますが、専門業者や弁理士に依頼する方法もあります。

■ 商品形態の模倣行為にも注意
気をつけなければならないのは、他人の商品の形態を模倣する行為が、不正競争防止法上、「不正競争行為」として規制されているということです(法2条1項3号)。

「模倣」とは、他人の商品の形態に「依拠」して、これと「実質的に同一」の形態の商品を作り出すことをいい(法2条5項)、商品形態模倣行為に対しては、差し止め請求や損害賠償請求が認められます(法3条、4条)。
ここで、他人の商品の形態は、意匠権のように登録されている必要はありませんので、特許情報プラットホーム(J-PlatPat)などで登録された意匠だけを調査しても、見落としてしまうおそれがあります。
よって、デザイン開発にあたっては、登録意匠だけでなく、同業他社のWEBやカタログ、展示会などで、製品販売の動向や情報を地道に調査しておくことが重要です。

デザイン契約

■ デザイン契約書作成の実情
デザイナーにデザイン業務を委託・発注する場合、契約書を作成するケースは少ないのが実情です。多くの場合、発注側が商品企画に用いるデザインの制作をデザイナーに依頼し、その報酬としていくら支払うという口約束を交わすだけで、具体的な取り決めがされていることは多くありません。
しかし、最初にきちんと取り決めをしなかったために、発注側とデザイナー側の考えが違っていることに気づかず、後になってトラブルになることがあります。

■ デザイン契約におけるトラブル例
例えば、受注した業務の内容を明確にしていなかったためにデザイナーが思ってもいなかった追加作業をさせられたり、格安で受注したところ商品が大ヒットしたのにそれ以上の報酬を全くもらえなかったり、打合せ段階で不採用となった案がデザイナーの知らないうちに別の商品に使われていたりするようなことが起こります。
一方、発注側にも、十分な報酬をデザイナーに支払い、さらに多くの費用をかけて商品開発までこぎつけたのに、その段階になって他社から同じデザインの商品が販売されていたり、意匠権侵害を理由に警告を受けたり、あるいは商品がヒットしたので他のグッズに使おうとしたところ、デザイナーから苦情を言われたりするようなことが生じます。
このような両者の考えの違いをなくすためには、契約書で具体的内容を定めておくことが重要です。
なお、デザイン契約におけるトラブルを未然に回避するためのポイントが、近畿経済産業局のホームページに掲載されています(「デザイナー・中小企業のためのデザイン契約のポイント 意匠制度によるデザイン保護と活用」 近畿経済産業局 知的財産室)

■ 契約内容を正しく理解することの重要性
もっとも、デザイン契約書を作成していても、トラブルが完全になくなるわけではありません。契約する場合には、契約書に記載された各規定の意味を十分に理解しておく必要があります。
契約書を作る場合には市販の書式が使われることが多いと思いますが、デザイン契約書の書式には、例えば「第三者の知的財産権を侵害していないことを(デザイナーが)保証する」という、いわゆる保証条項が定められていることがあります。これは、採用されたデザインが第三者の知的財産権を侵害している場合、デザイナーが賠償責任を負うことを約束するという意味の規定です。
しかし、第三者の知的財産権を侵害しているかどうかは高度な法律的判断を要するため、相当な知識と調査が必要になります。デザイナー側はこのような規定の意味を知らずに契約書を作成していることが多いのです。
デザイン業務の委託、発注をめぐるトラブルを防止し、デザインを保護していくためには、契約する段階で契約書を作成すること、また契約書に記載されている契約内容をしっかり理解することが大切です。

デザイン経営

■ デザイン経営の意義
デザイン経営とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用し、国際競争力を高めていこうとする経営手法のことをいいます。

あらゆる産業分野において、いかに技術的に優れた商品であっても、それだけで売れるという時代ではなくなりました。
こうした中、アップルやダイソンのように成功をおさめている世界の有力企業は、デザインを重視した経営戦略に注力しています。

これらの企業では、製品デザインが技術内容やサービス効果を端的に表しているだけでなく、製品の価値を高めることによって、持続的な成長に大きな役割を果たしています。

■ デザインの効果
ここで、製品やサービスに対するデザインの効果として考えられるものを挙げると、以下のとおりとなります「デザインのチカラ、活かし方~デザインでイノベーションの扉を開く!企業実例集~」2頁(経済産業省 近畿経済産業局 知的財産室)

(1)技術開発により新たな価値・用途が付加されたことを伝える効果(技術を伝える)
(2)これまでの顧客とは異なる対象層に新たな価値を提案する効果(価値を提案する)
(3)特徴的なデザインにより模倣品を抑制できる効果(模倣品対策)
(4)多くの人が使いやすく、わかりやすくする効果(使いやすさ)
(5)新事業や新シリーズのブランドの価値を伝える効果(ブランド構築)
(6)プロモーションを活発化、従来と異なる販路を開拓させる効果(販路開拓)

こうした様々な効果を持つデザインの力を、技術力だけでは差別化を図れなくなった企業活動に活用することにより、企業のブランド価値向上やイノベーションを実現していこうとするのが、デザイン経営の考え方です。

■ 経済産業省・特許庁によるデザイン経営宣言
経済産業省と特許庁は、2018年5月に報告書『「デザイン経営」宣言』を取りまとめ、デザイン経営を推進しています。

日本でも、デザインの価値を見直し、デザイン的な視点で製品や事業の課題を改善して、国際競争力を高めるアプローチにシフトしている企業がたくさんあります。
そして、このような企業は関西地方にも多く存在しています。
デザインを活用して新製品、新サービスを打ち出し、ユーザーからの支持を集めて成功している例が、近畿経済産業局 知的財産室のホームページに紹介されており、デザイン活用の参考になります。